小学校の教員が、国語の授業で点字について教えた際にスパイ同士が暗号を使うという設定で「殺される前に殺せ」などの例文を使ったというニュースを見た。
殺人をネタにすること自体についてはわりとどうでもいい。一度話題になるとバカの一つ覚えみたいに延々と似たような話ばかりを報じることにうんざりする。他にやることあるだろと思うんだけど、それはそれとして内容がちょっと気になった。
「殺される前に殺せ」を点字翻訳…小学校教諭、授業で
2010年11月29日 読売新聞
「教材として不適切」ということで問題になったらしいんだけど、その理由として「点字を使う人に失礼ではないか」というものがあげられている。
(記事によって校長の謝罪だったり保護者からの指摘だったりするので誰がそう言ったのかはよくわからない)
これ読んで私もちょっと思ったけどさ。
いやいや暗号じゃねえよただの文字だよと。
でも国語だろう。社会で「視覚障害者について」だったら、「視覚障害者を」特別な存在にしてしまうという点でダメだけど、国語で「点字を」学ぶなら、興味を持たせるためのゲーム要素ってのは別にいいんじゃないか。穴埋めドリルや漢字パズルだってゲームだし。
殺人をネタにすることの倫理はまた別ね。
誰が誰に対してどのように失礼だと思ったんだろう。
障害者を取り扱うなら真面目に硬く深刻にせねばということなら、それも障害者を異質な他者としてしかとらえないという失礼な見方だ。
そんで「手招くフリーク」を思い出した。
加藤晃生の【手話音楽のこれまでとこれから】(第8章)が、手話と手話音楽(歌に手話の振り付けをしたパフォーマンス)についての話だった。
今の日本では手話と聾者が不可分で、聾者(聴覚障害者)と福祉も不可分で、“手話=ボランティア・福祉”みたいなことになってしまっている。
手話は聾者の言語だから、聾者と手話が不可分なのは当たり前。ただそれとは別に聾者を支える手話関係のしくみがあまりにも不足しているから、手話ができる人には役立って欲しい→手話を習った人には福祉コースがてぐすね引いて待っている。習う人はそれに怯んで興味本位で手を出すことができない。
だからもういっそ切り離しちゃえよ、手話音楽は手話音楽というパフォーマンスジャンルのひとつにしちゃえよってなことが書いてあった。
(乱暴なまとめなのでちょっと違うかもしれない)
それを読んで、目から鱗が落ちた。
私は「手話は聾者のものだから、聾者を無視して手話音楽を聴者が奪ってしまうのはダメだろう」と考えていた。
それはそうなんだ。聴者の手話サークルが自分たちだけが楽しく善い気分に浸れる日本語手話(日本語を直訳した手話。聾者の言語である手話とは文法が違う)による手話音楽発表会を、別に見たがってない聾者に見せてやるたぐいの「善行」はそりゃダメだ。
でも、福祉や聾者とイコールで結ばない手話音楽、送り手や受け手が誰であれ(聴者であれ聾者であれ)カッコイイとか楽しそうとかいう理由で入っていける手話音楽っていうのはいいなあと思った。
目の前の人の感情を無視するのと、物事の背景を知らないのは、同じ「見ない」でもだいぶ違う。
たとえばゴスペルは黒人音楽だけど、美しいからってだけの理由で聴いたっていい。
ゴスペルにのせてヘイトを歌うような歴史の無視なら論外だけど、背景を知らずに好きになって、そこから歴史を知っていくのはありなんだと思う。知らないまま楽しむのも不謹慎なことじゃない。
ゴスペルを好きな人の絶対数が増えれば、そこから文化や歴史に興味を持つ人の数も増えるだろう。
車椅子バスケットに憧れるのは失礼じゃない。
点字も、暗号みたいでカッコイイ!ってところから興味を持つのは別に失礼なことじゃない。
そこで車椅子ユーザーはみんな体育会系だとか視覚障害者はスパイだとか視覚障害者は全員全盲で全員が点字を読めるとか思われちゃうと困るけど。
障害関係のことになると、なんでも福祉や「してあげる善行」になってしまうのはよろしくない。
車椅子について学ぶったって、技術でしくみ、美術でデッサン、保健体育で体の構造や病気や障害、社会なら販売数や法律や歴史などなど、モノ自体を調べるにせよユーザーの置かれた状況を知るにせよ、切り口はいくらでもある。興味を持つための入り口はどこにでも作れる。
「点字を使っている人に失礼」という発想は、(どういう使い方だかわからないから、このケースがどうかはなんとも言えないけれど)ある一定の見方を押し付けるものになりがちだ。
元気だろうが立ちたい事情があろうがおかまいなしに、とにかく電車で障害者を見たら無理矢理座らせる、みたいな、気配りのつもりの迷惑な自己満足に近いものを感じる。
関連リンク
⇒倉本智明 編『手招くフリーク』生活書院の感想
⇒電車で視覚障害者を見かけたら
2010年11月30日
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