2010年09月26日

倉本智明編『手招くフリーク』生活書院

表現物や表現行為をめぐる諸事象に障害学の立場からアプローチした論集。
とあるけれど、論文・論評というよりはエッセイっぽい。
エッセイの軽さで読める反面、エッセイ並みにただの「考えたこと」もある。
玉石混淆ではあるけれど、おおむね面白い。
テーマや論点が少しずつ重なってズレていく並べ方が良い。

障害学的アプローチというのは「異形」を考えるということでいいのかな?
見た目が違うもの、見た目からして違うもの、違うと見なされるものの在りかたや扱われかたについて。
(違うのに違うように見えないから可視化されないものには見えないことの問題があるけれど、見えたとたんに「異形」にされるから基本的には同じ問題を共有する)
マイノリティや被差別者が差別や偏見と闘うやりかたには共通点がある。
とんでもなく貶められているから、まずは全力でプラスの方向へ評価をぶん投げて、「ダメなんかじゃない、素晴らしいんだ」と訴えて、それがある程度認知されたら遠くまで投げすぎてた分を「普通」まで引きずってきて、過剰に美化された部分を削り取って、ようやくスタートラインに立てる。


たとえば女性の闘い方のひとつに「未来を担う子どもを産み育てる崇高な母性」を武器にするパターンがある。
古い時代や男尊女卑のきつい場所では特にそうなる。
母性しか武器がないから母性を武器にする。
本当は、子供なんか関係なく性別も関係なく誰の人権も尊重されるべきなんだけど。

その闘いの最中にだって、献身や受容や母性を押付けられることに疑問を呈す女性がいないわけじゃないけれど、自律する女性はあまりに「進歩的」すぎて一般には受け入れられないから、まずはマジョリティに理解できる程度まで譲歩する。


あるいは「障害はあるけれど心は綺麗」「同性間だって愛に変わりはない」「いいエイズ(HIVの感染経路が性的接触じゃないから悪くない)」の類。

有益ですよ、少なくとも非や害はないですよと言わなくては受け入れられない。
正論を説いたところで差別者側は叩きたいだけだから何をいったって変わらないんだけど、マイノリティ当事者や悪意のない人の認識は変えられる。
自分たちの価値を主張する言葉に触れた「先進的じゃない」マイノリティは、「あれ?俺ら下等生物じゃないんだ」「卑下しなくていいんだ」と気づく。
気づいたらそこから「自分はそこまで素晴らしくない。でも素晴らしくないからダメっておかしくない?」という考えが出てくる。

この本は、「役に立ちますからぶたないでください」「俺たちはこんなことができます、こんなに素晴らしいんです」という段階を終えて、「素晴らしくないですが何か?」と言うための言葉だ。
マジョリティへの同化ではない、自分たちの「普通」を主張するための作業。




以下、章ごとの感想メモ
内容と感想が脈絡なく混じっているよ。



第1章 「真実の感動物語」を読み解く 土屋 葉

漫画に描かれる「障害者(と健常者)の恋」
わかりやすい障害者の印、「車イス」
題材としてとりあげられる折原みとへの批判と評価はなんか見たことある。
『学校文化とジェンダー』に出てきた「他者(男の恋人)によって承認される女子」「理解できるから認める→承認されなければ崩れてしまう危うさ」についての文章とだいたい同じ。
同じ人だったのかな?



第2章 アルビノ萌えの「後ろめたさ」からの逃走 矢吹康夫

アルビノはハリウッドでは「悪役」、日本ではやたら美しい萌えの対象。
いずれにせよベクトルが違うだけで異形であることに変わりはない。
現実の色素欠乏症を知ってしまったアルビノ萌えの人たちはちょっと居心地が悪い。
障害者萌えー!とはおおっぴらに叫べないので、「現実のアルビノとは違うんです二次元の話なんです!」と自分に説明をつける。
アルビノ萌えの「アルビノ」は色素欠乏症の当事者から切り離される。
「やおいはファンタジーであって“ホモの方”を貶める意図はありません」みたいな。
引用されてるサイトの注意書きがひどい。
よくあるパターンだけど(だけに)。


第3章 「異形」から「美」へ ――ポジティヴ・エクスポージャーの試み 西倉実季

2章に続いてアルビノがメインの題材。
あとはユニークフェイスとか、見た目が違う「だけ」で生活に不便のない人たちも。
アルビノをモデルにした作品によって、ひとつの価値観で決められた美しさだけが認められる貧しい価値を問う試みも、やっぱり「白い=美しい」という価値観に囚われていたりする。
白さ(美しさ)がちょっと過剰な白い人(白人のアルビノ)と、人魚の肉みたいに食われかねない完全な異物(有色人種のアルビノ)は同列じゃない。
摂食障害とジェンダーや、『巨乳はうらやましいか?』に出てくる「特別じゃない胸がある景色」の写真プロジェクトを思い出した。
(ジャネット・ジャクソンの胸ポロリ事件のあまりの騒ぎっぷりに、なんなの?そんなに女性の胸って見せちゃいけないもんなの?という嫌な感じを受けて写真家の人がエロや薄暗いものじゃない写真を撮り始めたプロジェクト⇒http://uncoveredbook.com/index.php


第4章 児童文学にみる障害者観 ――「ピノキオ」問題は克服したか? 三島亜紀子

「母よ殺すな」と言わせてしまう障害者の描きかた。
私は恥ずかしながら「ピノキオ」や「ちび黒サンボ」や「はだいろ」のできごとをよく知らなくて、ずいぶん過剰な反応だと単純に思っていた。
問題提起を(あえて?)ずらして糾弾されるのは王道パターンだけど、ピノキオ問題もその類だったのか。
「びっこ」や「めくら」という言葉を使うことが問題なのではなく「悪いことをすると障害者になるぞ」という価値観を問題視しているのに「言葉狩り」を責められる。
子ども用のしょうがい絵本は子どもに「正しい対応」を求める、という指摘には、育児マニュアルに脅されすぎて自分の感情がわからなくなってしまう親を連想する。


第5章 「改造人間」、その変容とその「幸福」について 中根成寿

最悪。悪い意味でオタ臭い。
それでも(知ってる人にしか理解できない)オタトークはまだマシで、唐突にわりこんでくる「自分嫌いな女性」の話がひどすぎる。
自傷や摂食障害をそんな一方的な男オタクの文脈で読まないでくれ。


第6章 ラッパーたちのフリーク・ショー ――その身体は、何を物語っているか 後藤吉彦

黒人ラッパーたちの過剰な身体改造。
見世物からBlack is beautifulを経て手に入れたはずの「人間」の地位を無下にするようなフリークス。
善良な位置にいるひとからは見えない読みとれない文脈のタトゥー。
「過剰」によって意味や価値に抗う。
「みんなちがってみんないい」をみんなおんなじ筆致で描く絵手紙の対極にある表現。


第7章 自己表現の障害学 ――<臨生>する表現活動 荒井裕樹

精神病院で開かれた精神病者のアート活動。
治療ではなく癒しのための絵画教室は、評価と無関係だから安心できる保健室の存在に似ている。
それでもやっぱり「健常者をおびかさない程度の斬新さ」や「治療効果」を期待される。
問われるべきは期待する「こちらがわ」の「私」だ。
私この活動の展示会を何回か見たことあるな。


第8章 手話音楽のこれまでとこれから 加藤晃生

手話が福祉になってしまう社会と、福祉にせざるを得ない(資源に乏しい)現状。
当事者が好まないのにもかかわらず(気づきもせず)当事者を喜ばせてあげるための出し物として使われる手話音楽は、老人ホームを慰問したがるボランティアのヘタな手品みたいだ。
手話音楽と聾者をいっそ切り離してしまえという主張は目から鱗が落ちた。
なるほど、ゴスペルは黒人音楽だけど音楽としての美しさだけを愛でることが許されるから広まっているし、そこから歴史に目を向ける人だってきっといるだろう。
障害の話題は福祉以外にもある

第9章 萎えツボの地雷原から隣へ逃れて ニキリンコ

あーなんか、すごくわかる気がする。
自分のフィールドはもはや何も考えずに楽しめないから、違うフィールドに遊ぶ。
ヘテロ女性である著者とゲイミステリは、マイノリティというくくりでは共通するけれど他人事だから切り離せる。
他人事っぷりに一部違和感がないでもないけれど、当事者部分の細やかさがあまりに大変そうで、もっと当事者気分になれとはとても言えない。
女子のやおい熱やメンヘル漁りの一部はここに関連がありそう。


第10章 岩と違和をめぐるモノローグ ――ロックを聴くこと、障害者であること 倉本智明

「かっこいい人たちの音楽」と呼ぶときの「かっこよさ」の定義の違い。
私は題材にされる音楽を知らず、歌詞を読む限りでは好みでもないせいで、あまり共感はできなかった。
自分の立つ瀬を「君さえ知っていてくれれば」に求めてしまうのは(特定の「誰か」ではないとはいえ)どうなの?と1章の論点に戻ってしまう。
だけど、それさえも循環する問題提起なんだろうか。


いろいろ考えたくなる本だ。

posted by ヒギリ at 18:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評みたいなもの | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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