なんにでも、時期というものがあってね。いまは、はたらくときなのさ。
ラッパ吹きのヘムレンさんと、はい虫のサロメちゃんは『ムーミン谷の冬』に出てきます。
ヘムレンさん(ヘムル族)はたいてい収集家で強いこだわりを持っています。
善良で、好きなモノが目に入るとまわりが見えなくなる一極集中タイプですね。
ちょっとアスペルガーっぽいかもしれません。
ここに出てくるヘムレンさんは収集はしませんがスキー大好きのスポーツマンです。
朝もはよからラッパを高らかに吹き、さっそうと登場します。
まわりじゅう真っ白になる雪の中、川で気持ちよく水泳にはげみ、
「こいつはよけいな考えや、くよくよした思いを、きれいに追いだしてしまうんだ。
たしかに、家にこもってじっとしているほど、わるいことはないね。」
とのたまい、
あまつさえ、家にこもったりなんかしていたらだめになると言ってのけます。
・・・まあ、正論なんですが。ひきこもりにはやさしくないです。
森田健作ばりの爽やかさと健全さです。
(もっとも、森田健作と違って異論を許さない健全さではないところが救いではあります)
そしてそのあまりにも強烈な健全さで、ひんしゅくを買いまくっています。
このときヘムレンさんを嫌がっているのは、
大雪と寒波でムーミン屋敷に避難してきた人たちです。
ムーミン家の世話になりながら、卑屈になって昔を懐かしんでばかりいます。
それはたしかに気持ちのいい風景では有りません。
しかしこの人たちは住み慣れた家を離れざるを得なくなって
ショックを受けているし新しいことを始める段階にはまだ到達していません。
ヘムレンさんの言葉をかりるなら、今は休養が必要な時期なのです。
弱っている時にヘムレンさんみたいな人は
あまり見たくありませんから、うとましがるのも無理はありません。
しかしヘムレンさんの前に言い訳は無力です。
気を悪くすることもなく
「うん、そうか、いずれ、ぼくのいったとおりだと、わかってくるだろうがね」
と自分の正しさをまったくうたがいません。
そんなヘムレンさんを唯一したっているのが小さな「はい虫」のサロメちゃんです。
サロメちゃんは一生懸命ヘムレンさんのあとをチョコチョコとついてまわります。
でも引っ込み思案なサロメちゃんの小さな声は、ヘムレンさんにはとどきません。
おしゃまさんいわく、
この世界(引用者注、冬の世界)には、
夏や秋や春にはくらす場所をもたないものが、いろいろといるのよ。
みんな、とっても内気で、すこしかわりものなの。
ある種の夜のけものとか、ほかの人たちとはうまくつきあっていけない人とか、
だれもそんなものがいるなんて、思いもしない生き物とかね
サロメちゃんは夏や秋や春には暮らしにくい子なんだろうと思います。
でも、冬の住人ではない。
冬の住人なら、きっとヘムレンさんは苦手だと言って
いや、口に出すことさえせずに、黙って逃げていくでしょう。
ヘムレンさんの強烈な健全さにひかれるのは、
サロメちゃんが冬の住人とは違っていることの証拠のように思えます。
この子はまだ、冬以外の季節でも生きていける。
なんだかこのふたり、
私には金八かぶれの外し気味熱血教師と保健室登校の生徒のように見えます。
正しいことを主張するばかりの教師というものは、
学校に行けないことに良心の呵責を感じているタイプの子どもにとっては
かなりのプレッシャーですから、有害なだけだと私は思っています。
学校なんか、死ぬほど嫌なら行かなくてもいいんです。
命の方がよっぽど大事ですから、死ぬくらいなら行かなくていい。
でも、行けるならいったほうがいい。
行かないより行く方が、後が楽だからです。
学校から他の社会へというルートが一番一般的で楽なんです。
勉強とか、学校に行くという経験の共有があるのとないのとではまったく違いますから。
行く行かないが問題なんじゃなくて、生きる道の問題なんです。
行けなくて苦しんでいる子に学校へ行くべきだなんて道理を説くのは、
行けない子に自己嫌悪と絶望を植え付けるだけです。
けれどその後の苦労や生きにくさをなにも見ずに、無責任に迎合して
「そのままの君でいいんだよ。学校なんか行かなくても立派に生きている人はいる」
なんていう奴も同じくらいに、時にそれ以上に有害です。
そんなことをいうのなら、立派に生きる方法とやらを教えるべきです。
サロメちゃんは、冬の住人ではありません。
学校でいえば、クラスになじめずにいるけれど学校に参加したがっている。
そういう子には不登校は悪くないと告げるよりも、
行ける環境を作ってあげるほうがいい。
だから時には、ヘムレンさんのような人も必要なんだろうな。
こっちの都合なんか考えもせずに健全さを主張する人が。
※保健室登校はたいしたことがないから教室に引きずり出せと言っているわけではありません。不登校だろうが保健室登校だろうがひきこもりだろうが、外に出やすい環境をつくることと、今のその人自身を否定しないことの両立を目指すべきだと思っています。






私もサロメちゃん大好きです!